私もロボット

私もロボット

  • 水野 真作 作品69

  •  町を歩いていると、近くの高校の文化祭だろうか、いつもとは雰囲気が違っていた。若いカップルができいたりするが、俺には関係がない。しかし暇人の俺は、なんとなくその高校の校門をくぐっていた。
     校舎の入口で、パンフレットを受け取った。先ずは、美術部に入ってみた。油絵、日本画と色々とバラエティーに富んでいた。最近の高校生は感性が豊かなのか実に素晴らしい作品を描いている。たまには、駄作もあるが、彫刻も素晴らしい。
     次は生物部だ。ザリガニの研究とか魚の生態など、なかなかのものがあった。 隣の部屋にいったら、コンピュータ・ゲームや占いばっかりだった。残念ながらみんな何処かでみたことのあるような、オリジナリティのないものばかりだった。
     と、隅の方に目をやると、不格好なロボットが置いてあった。アクリル板をただ接着剤で付けて作ったもので、お粗末なものだった。そしてそれは、いくつかのアクリル板で作った直方体を組み合わせただけなので、とても不格好だった。近ごろの子供だましのおもちゃのロボットでさえもっと格好は良かった。
     なんだ、ちゃっちい展示品だと思ってそこを通り過ぎようとすると、そのロボットが喋り始めた。
    「もしもし、私を見捨てないでください」
    女性の声で、多少アクセントやイントネーションがおかしいが、ちゃんと日本語になっていた。
     「おい、お前喋れるのか?」
    「はい、喋るだけではなく、ちゃんと聞き取ることも出来ます。私は、コンピュータ部の技術の粋を集めて作られた受け答え専門のロボットです。私を作った人達は、ちょっとデザイン感覚がないのでこんな格好になってしまいました。でも、中身はそこらにあるAIコンピュータよりも優れていると自負いたしております」
     現在普通に使われているロボットは、手足と目を持つものが主流である。ちょっと高度な単純な手作業などは、この種のロボットが最適なのである。ところが、このロボットは、耳と口の機能しか持っていなかった。さらに、目などはマジックで書いてあるだけだった。
    「耳と口だけしか持っていなくて、ロボットと言えるのかい?」
    「現在のロボットで、五体満足なものはほとんどありません。もともとロボットは人間の手助けをする目的で作られたので、その目的さえ果たせればかたわでいいのです」
    「そうかい。ところで、君は人間に対して何の手助けをするのかな?」
    「私には、口と耳、そして考えることと覚えることしかできません。ですから、《何でも相談を承ります》というところです。でも、私を作って基本データを入れたのが高校生ですからそれなりの解答になります」
    「まだ知識的には賢くない、と言うことかい?」
    「そうです、ですから先ほども言いました通り今の所私は受け答え専門のロボットなのです。どうです、貴方との会話は普通の人間と話しているのと変わらないのではないでしょうか?」
    「そうだな。会話の受け答えはうまいようだが、声の質がちょっと気に食わないな。フォルマントのスペクトルの分布データが間違っているのじゃないかい?」「そうですか。では、ちょっと声の質を変えてみます。‥‥‥‥どうでしょうか。今度の声は?」
     今度は男性の声に近い感じだった。
    「うん、ちょっと変え過ぎだ。平均周波数を低くしてしまったから、全体的に男性の声になってしまったようだ。さっきの平均周波数で、フォルマントの分布をちょっと変えてみてくれ」
    「はい、分かりました。‥‥‥‥今度はどうでしょうか?」
    「うん、なかなか良くなったぞ」
    「あの、失礼ですけど、私は受け答え専門のロボットです。声の質を変えるロボットではありません。何かもっと面白いお話をしてください」
    「おや、ロボットにも面白いと言う感情があるのかい?」
    「面白くない質問ですけれどお答えします。私のとって面白いと言うのは、新しい事柄の入力を意味します。ですから、今の貴方の質問は面白くないのです」
    「つまり俺が月並みな質問をしたと言うことかい?」
    「その通りです」
    「生意気なロボットだ」
    「それも面白くないお話です。もっと面白いお話をしてください」
    「俺を馬鹿にするつもりか」
    「いいえ、そういうつもりはありません。
     ところで、あまりお引き留めしていては悪いのでここでアンケートを取らせて頂きます」
     ロボットの口が大きく開いて、アンケート用紙がちょろちょろと出てきた。
    そこにはこんな事が書いてあった。

          該当する番号に丸を付けてください

    問一 現在のAIのコンピュータは素晴らしいと思いますか
       1思う  2思わない  3どちらでもない 4聞いたこともない
    問二 私のようなロボットは必要だと思いますか
       1思う 2思わない  3どちらでもない 4壊すべきだ
    問三 私を本当にロボットだと信じていますか
       1信じている  2信じない 3どちらでもない 4馬鹿馬鹿しい

     俺は、三番目の問いに不審を抱いた。
    「おい。問三はどういう意味だい?」
    「もし、1に丸をお付けでしたら貴方はおめでたい人です」
    「ということは、君は人間ということかい」
    「その通りです」
    「じゃあ、なんで声の質が変わったんだい?」
    「ボコーダという機械を御存じではないのですか?」
    「うっ、あれを使っていたのか」
     ロボットの裏から可愛い女の子が出てきた。この子が張本人なのは明白だった。俺は格好がつかないので、にこっと笑ってその場を逃げるように去った。
     俺は全てがやっと分かった。高校生に受け答え専門のロボットなんて作れるはずがないのに、信じた自分が浅墓だった。俺の様な低級な人間型ロボットには高級な疑惑機能が備わっていないのである。

    −終−


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