子供の国

                作品 64



  むかしむかし、あるところにおじいさんと

おばあさんがいませんでした。おじいさんとお

ばあさんばかりではなく、大人は誰一人いませ

んでした。そこは、子供しか住んでいない子供

の国でした。

 「いいかい、昔話を聞かせてあげるから静か

に聞くんだよ」

リーダー格の子供が、小さい子供達を集めて言っ

た。

「むかしむかし、あるところにおじいさんとお

ばあさんが住んでいました」

「おじいさんて、何」

「うーん、僕もわからないんだ。住むことの出

来るのだから、動物の一種だろう、おばあさん

というのも、多分そうだろう」

「犬とか猫みたいなものなのね」

「そうだよ、でも、おじいさんは山へ芝刈に、

おばあさんは川へ洗濯に行きました。というの

だから、人の名前かもしれない」

「面白い名前の人ね、笑っちゃうわ」

「おばあさんが洗濯をしていると、川の上の方

から大きな桃がドンブラコドンブラコと流れて

きました」

「あれっ、ぼく、そのおはなし知っているよ。

続きはね、『おばあさんは、おじいさんと二人

で食べようと、川からその大きな桃を拾い上げ

ました。しかし、こんなに大きい桃は滅多にな

いので、すぐ食べては神様の罰が当たると思い、

床の間に飾っておきました。すると、すぐに腐

りはじめて、中の桃太郎までも腐ってしまいま


した』というんでしょ」

「うーん、良く知っているね」

「おにいちゃん、桃太郎ってなに」

「たぶん、桃の種だろうね。相当の腐り具合い

だったのだろうね、種まで腐ってしまうのだか

ら」

「ねえ、おにいちゃん、このおはなし、何処が

面白いの?」

「昔話は、分からない言葉や、難しい文章があ

るから何処が面白いのか分からないのが特徴な

んだ。分からなかったことが分かったときが面

白いんじゃないかな」

「ふーん、そうなんだ」

子供達は素直にリーダーの説明に納得しました。

 この子供の国には以前、かの有名なピーター

パンが訪れたことがあります。彼は、この子ど

もの国を手本にして自分の子供の国を建国した

と言われていますが、確かなことではありませ

ん。ここは子供にとって理想の場所です。遊び

場もたくさんあるし、ゲームの機械もふんだん

にあります。この国にある遊びの道具は、不思

議なことに、予告もなしに突然現れ出てきて、

壊れれば何処かに消えていってしまいます。そ

れから、子供達は全く歳をとりません。いつま

ででも子供のままでいられるのです。学校も無

く、当然勉強などしなくてもいいのです。ただ、

遊んで過ごしているだけでいいのです。

 そこへ宇宙の彼方から円盤がやってきました。

銀色の船体に太陽の光が反射してとても綺麗に

輝いていました。

「わーい、新しいおもちゃが天から降ってきた

ぞ」

と、子供達は口々に円盤の着陸した地点に集ま

りました。彼らには、突然現れるものはみんな

おもちゃなのです。


「このおもちゃ、のっぺらぼうだぞ」

「ちょっと叩いてみよう。いてっ、こりゃ相当

硬いぞ」

「このおもちゃ、どうやって遊ぶのかしら」

「今までのおもちゃとは全然違うね」

「何処にも、ボタンやスイッチがないぞ」

「ひょっとしたら、怪獣の卵かもしれない」

「うん、きっとそうだよ、みんなで割ってみよ

う」

子供達は、落ちている木の枝とか、石を使って

船体をおもいっきり叩きました。

が、傷一つ付けることも出来ませんでした。

「おい、変だぞ。これは、怪獣の卵じゃないよ

うな気がする」

「じゃあ、何だいこれは」

「天から降ってきた桃さ、中にはおもちゃが詰

まっているんだよ、きっと」

「でも、桃太郎の昔話だと、中まで全部腐っちゃ

うのよ。外側が腐らないうちに中身を取り出さ

ないといけないわよ」

「桃はともかく、おもちゃが腐るとは思えない

ね」

「同感、腐ったおもちゃなんか見たことが無い

からね」

「じゃあ、この大きなおもちゃ箱どうする?」

「外側が腐るかどうか二・三日置いてみよう」

「そうしよう」

「それがいいわ」

子供達は、その場を去って行きました。

 その円盤の中にはおもちゃは入っていません

でした。そして、宇宙人もいませんでした。た

だ、中にあるものは精巧な機械だけでした。実

は、この円盤は、地球人の文明を測定にきた探

査機だったのです。この円盤に興味を持って、


分解或は破壊することが出来れば、かなりの文

明が地球にあることになるのです。この探査機は、

着陸するとまずそこの言語を解析し、彼らが何

を考えながら分解を行うかを調べるのも一つの

目的でした。

 探査機は、その星がどんな文明を持っていよ

うとも、使命が終ると自動的に溶ける仕組みに

なっていました。また、もし、かなりの文明が

あって、分解を始めたときにはすぐにそのデー

タを母星に送ってから溶け始めるのです。した

がって、この探査機は、地球には遊ぶことしか

考えていない知能程度が低く、文明度も低い生

物しかいないことを母星に知らせたのです。

 「おい、みんな、大きなおもちゃ箱が溶けちゃ

っているぞ」

「やっぱり、桃だったんだよ」

「全部腐っちゃったのね」

「おもちゃじゃなかったんだ」

子供達は、口惜しそうに騒いでいました。

すると、そこにまた、銀色に輝く円盤が着陸し

たのです。

「おい、また桃が降ってきたぞ。今は桃が熟し

て落ちてくる季節なのかなぁ」

「どうせあれは、おもちゃじゃないんだ。あっ

ちに行って遊ぼう」

「すぐに溶けて無くなっちゃうんだろう。向こ

うにいこう」

と、子供達はそこを去ってしまいました。

 この円盤は、先ほどの円盤とは違う星からき

たもので、無人の探査機ではありませんでした。

それには、二人の宇宙人が乗っていました。そ

して彼らの目的は、地球の植民地化でした。円

盤内ではコンピュータがフル回転をしていまし


た。さっき子供達が話していた言葉を解析し

ているのです。

「《もも》とは何だろう。文脈からいくと多分

我々の円盤らしいぞ」

「うん、そうだろう。《おもちゃ》というのは、

簡単な機械の事を言うらしい。ということは、

彼らは、ちょっと見ただけで、この円盤の構造

を知ったということだぞ」

「必ずしも、そうとは限らないと思うが、きっ

とそうだろう。そして、全然興味を示さなかっ

た。これは、この円盤が彼らにとって低級な乗

り物に見えたからだろう。これは、かなりの文

明を持っている証拠だ」

「ちょっと待った。その次の言葉は恐ろしいこ

とを言っているぞ」

「何だい」

「我々の円盤がすぐに溶けて無くなってしまう

ことを言っている。そして、この場を去ろうと

している」

「ということは、一瞬にしてこの円盤を消して

しまうような恐ろしい兵器が狙っているという

ことだ」

「それは大変だ、すぐに逃げ出そう」

 その円盤は、すぐに地球から脱出した。

そして、子供達は、地球を救ったとは知らずに

無邪気に遊ぶだけだった。



                         −おわり−

                         作 水野 真





Copyright 1996-2007 by Makoto Mizuno. All Rights Reserved.
rademarks shown here are the property of their respective owners.