美人メーカー

                 作品91



 かお美の髪は艶っぽかった。しかし、何か暗い

陰があって美人のはずの彼女が今日に限って美人

には見えなかった。ネオンは時の流れを知らない

ようにむなしくその仕事をしているだけだった。

かお美はアルコールをさますためにある小さなビ

ルの入口にたたずんでいた。そして、ときたま首

筋に手を持っていったりしていた。ずっとワープ

ロ打ちをしていたのでかなり肩が凝っていたので

ある。いつもならば酔っぱらった男がかお美を軟

派しようと言い寄ってくるのだが、何故か今日に

限ってこない。来たらばいつものように軽くあし

らってやろうと思っているのに残念だった。道行

く人は誰も、顔を伏せるようにしているかお美に

は特に注意を払ってはいなかった。だから、一瞬

のうちに彼女がその場から消えて居なくなったの

に気付いたのは誰もいなかった。

 かお美は、気が動転していた。薄暗いビルの入

口から突然目の眩むような明るい部屋に放り出さ

れたのだから。部屋中光だった。床に倒れている

るけれど、床を感じさせなかった。何か特殊な素

材で出来ているのだろうか、体が一番楽になるよ

うに柔らかい床自体が変形しているようだった。

そして、凝っていた肩を床が揉んでくれているよ

うに感じた。

 かお美は呟いた。

「あぁーいぃー」

その床はツボを熟知しているかのように、揉みほ

ぐした。

暫く、かお美は恍惚の世界に浸っていた。すると、

何処からともなく声が聞こえてきた。

 「僕は死ぬよ。もう遺書みたいのも書いてある」

「いやに簡単に言うなあ」

「あの娘も僕に尽くしてくれたけど、僕には縁の

無かった娘だと思っているよ」

「しかしなあ、それだけで死ぬなんておかしいぞ」

「僕は今度の恋には命を賭けているんだ」

「それは分かっている。でも、彼女が本当にお前

を振ったのかい」

「いいや。しかし、振ったに等しい」

「なんだそりゃ」

「詳しいことは言えないが振られたに等しいのさ」

「振られたとしても死ぬことはないだろう。俺な

んか、俺なんか……」

「おい、いい男が泣くんじゃない。お前も振られ

たのか?」

「ああ、それに等しい」

「そうか、じゃあ一緒に死のう」

「いや、俺は死なない。どんなことしても、彼女

を獲得するまで頑張るんだ。どんなに時間がかか

ってもいい。僕には彼女しかないんだ」

「楽天的だなあ。彼女はお前に気がないんだろう」

「失礼なこと言うな、可能性はゼロじゃない」

「可能性の追求かい? 馬鹿じゃないか?」

「馬鹿? そう、俺は馬鹿かもしれない。馬鹿じ

ゃなければ待てないさ」

「馬鹿は死ななきゃ直らない」

「俺の馬鹿は死んでも直らない。それから、俺の

馬鹿は伝染性だ」

「何だって?。そう言えば、今お前の馬鹿が移っ

たみたいだ」

「そうだろ。馬鹿になって彼女を待つのさ」

「分かった。死ぬのはやめるよ」

「いつかいいことあるさ」

「しかし、楽天的だなあ」


 「かわいそう。彼がかわいそうすぎるわ。あな

た、彼に自分の気持ちをはっきり言ったの?」

「ううん、はっきり言って良い時と、悪い時がある

のよ」

「そんなの、屁理屈よ」

「そうかも知れないわ。でもね、あなたも彼には

っきり言ったことあるの?」

「そ、それは……」

「無いでしょ。ほら、あなたの彼って、完璧に惚

れているわよ」

「ええ、陸上馬鹿ね。意味もなく私に突っ走るっ

て感じ」

「そんなこと、言っちゃいけないわよ」

「事実だもん。そして、じらして少し悩ました方

が効き目があるのよ。人間は悩めるから大きくな

るって知ってた?」

「知っているわ。だから彼にはっきり言わないの」

「あら、変ね私こんな事言うつもりじゃなかった

のに」

「あなたの素直な心が出てきたのよ」

「うまい言い方ね。私、素直な話、彼がとっても

好きなの」

「私も、同じよ」

「じゃあ、結局彼に言うきっかけが問題なのよね」

「そんなとこかしら」

「……」

「どうしたの、突然涙なんか流して」

「彼の事考えたらかわいそうになっちゃったの」

「あなたの彼? 私の彼?」

「両方」

「あなたって、やさしいのね」

「あなたも涙が出ているわよ」

「最近、涙もろくなっちゃったの。悲しくても、

嬉しくても」

「恋かしら、涙が落ちる、木漏れ日に、素直な私、

秋の夕暮れ」

「ど、どうしたの突然」

「なんとなく、そんな気分」

「私、彼に素直に言うわ。好きって」

「私も、はっきり言うわ。でも、もう決まった人

がいるのって付け加えるわ」

「えっ、やっぱりそうだったの。じゃあ私も素直

にもっと好きな人がいるって言っちゃおう」

「なに、それ」



  かお美は、ふと気付くとそこは薄暗い小さなビ

ルの入口だった。誰も彼女が突然現れたのに気付

いた者はなかった。彼女は今のは妄想だったのだ

ろうと思った。しかし、肩の懲りは治り体は快調

だった。そして、アルコールの酔った気分もなく

なっていた。さらに驚いたことに彼女はいつもの

美人に戻っていたのである。すると、待ってまし

たかのように男が言い寄ってきた。かお美はいつ

ものようにあしらった。



 彼女は、何もなかったように家路を急いだ。か

お美が自分のアパートに着くとその戸口に誰かが

立っているのに気付いた。一瞬身構えたが、そこ

に立っているのが若い女性であることが分かった

ので戸口に向かった。近付くと、その女性は話し

かけてきた。

「野中かお美博士でしょうか」

「はい、そうですが」

その女性は名刺を差し出しながら自己紹介した。

「私は、○×化粧品からまいりました西村カンナ

と申します。夜分に、迷惑かと思いますが、是非

聞いて頂きたいお話があります」


その外交員は、化粧品会社から派遣されただけあ

ってかなりの美人だった。

「化粧品だったら、充分間に合っています」

「いいえ、今日は化粧品の販売では有りません。

実は、私の会社で現在開発中の機械のモニターに

なって頂きたいのです」

「化粧品会社が機械の開発ですか?」

「ええ、そうなんです。この画期的な装置は発表

されたら、もの凄いインパクトを世界中に与える

でしょう。極秘事項なので、博士、出来たらお部

屋の中に入れてもらえないでしょうか」

かお美は、何かこの話にはきな臭い裏があると読

んだ。

「ええ、いいわよ。どうぞ」

と、笑顔でその外交員を部屋の中に入れた。

かお美は、さっきの事件ですっかり酔いが覚めて

しまったので、ワイングラスを取り出した。

「どうですか、ワインでも一杯」

「すみません、仕事中なので終わりましたら頂き

ます」

「そうですか。失礼して私だけ頂いちゃうわ」

かお美は、ロゼのワインをグラスに注いだ。

外交員の西村はそれにかまわず話はじめた。

「さっそく、本題に入らせて頂きます。化粧品会

社は、本来、女性・男性を区別していないのです

が、特に女性に美しくなってもらいたい。そして

その美しさをいつまでも保ってもらおうという願

いが基本となっています。ですから、年齢別・お

肌の種類などで数々の化粧品を作ってきました。

しかし、この方法では表面だけの美しさで仮面を

しているにすぎないのです。厚化粧なんて言われ

ることがよくあると思います。私も以前よく言わ

れました。でも、厚化粧は化粧ののりが悪い時に

起こりがちですね。では、どういう時に化粧のの

りが悪いのでしょうか。例えば、体調の悪い時、

喧嘩をしてむしゃくしゃするとき、だと思います」

「そう、その通りよ」

「そういうときは、化粧がうまくいっていても、

雰囲気で美人になれないのです」

「そんなものかしら」

「今晩のあなたもそうでした」

「だから男が寄ってこなかったのね」

「たぶん、そうだったのでしょうね。現在の化粧

品の技術は各社ほとんど同じです。ここで、売上

を向上させるには考え方の方向転換が必要と考え

ました。そこで、化学を用いて美を追求していた

のを、今度は精神・心理面から美を追求していこ

うと考えました。つまり、化粧だけでは美人にな

れない全ての要因を取り除くことを考えました」

「そんなの、出来るはずないわ」

「その通りです。しかし、ある程度の処置は出来

ます。肩凝りを治すとか、心を休めるとか。実は、

今晩博士に対して無断に実験対象になって頂いた

ことをお詫びいたします」

「なんですって。どういうことですか」

かお美は、危なくワイングラスを投げつけるとこ

ろだった。

「どうもすみません。でも、その結果美人に戻っ

たことを実感されたか思いますが」

「そういえば、何かあった後軟派されたわ」

「それで、新開発の美人メーカーの素晴らしさが

お分かりになったと思います」

「体が軽くなって、心もすっきりしたわ」

「博士は、元々化粧がお上手ですから、そのまま

化粧に手を加えずに美人に戻れたのです」

「へーえ。そうだったの。便利な機械ね。でもさっ

きその機械は開発中ってことだったじゃないの、

西村さん?」


「そうです」

「だとすると、未完成の危険窮まり無い機械のモ

ルモットにされたのかしら」

「いいえ、違います。実は、変な話なのですが機

械が高性能すぎるのです。この機械が普及すると、

先ほども世界中にインパクトを与えると言いまし

たが、世界中の製薬会社や、化粧品会社の倒産が

起こると予想され、我が社も、いつかはそうなっ

てしまう可能性もあります。先ほど、機械のモニ

ターになって下さいと、嘘を申しましたが、実は

博士にお願いがあって参上したのです」

「やっと話が分かってきたわ。話してちょうだい。

何なの?」

「その機械の効果はわが社の化粧品を使用したと

きのみに効果を示すようにしたいのですが、いい

方法が考え付きません。いい知恵を拝借したいの

ですが」

「難問ね。美人メーカーが普及するとその目的以

外にも使用できるため、世界経済の混乱をも引き

起こしかねないってところね」

「ええ、そうですわ」

「男性も使いだして、オカマが増えて社会構造も

おかしくなるかも知れないわね」

「そこまでは、考えませんでした。ありそうな話

しですわね」

「でも、何故私に相談するのかしら。その装置を

開発した人が一番よく知っていると思うけど」

「実は、美人メーカーの心臓部は博士の昔の論文

がヒントとなっているのです。ですから、今回も

博士からいいヒントを頂けるのではないかと、か

なり安直な考えで参上したわけです」

「ほんとうに短絡思考ね」

「はい、上司からこの仕事を言われたときは、心

で半分笑っていました。でも、会社としては藁に

でもすがりたい心境なのです。この装置の開発に

かなりの予算を使いましたので、うまくいかない

と倒産する恐れがあります」

「それはかわいそうね。でも、私が解決できる問

題じゃなさそうよ」

「分かっています。そこをなんとか」

「でもねえ。あっ、そうそう」

「何かいいアイデアでも?」

「仕事は、そこまででしょ。ワインをどうぞ」

「いいえ、博士に依頼することが仕事ですので、

博士が考えてくれるという返事を頂けないと飲め

ません」

「いやに仕事熱心ね、分かったわ、考えましょう。

でも、回答できるかどうかは断言できないわよ」

「承知の上です」

「では、ワインをどうぞ」

「はい、ありがとうごさいます」

かお美は、カンナにワイングラスを渡しロゼのワ

インを注いだ。

「ところで、その美人メーカーの動作原理ってい

うのはいったいどうなっているの」

「わたしも、よく知らないのですけど、技術者達

がパラレルワールド間エネルギー転送法の応用だ

とか言っていたわ。むかしお母さんが私達が転ん

で膝小僧を擦りむいたときに、薬を付けながら『

痛いの痛いの飛んで行け』と言ってくれた、あの

原理だと聞きました」

「パラレルワールド間エネルギー転送法は私の昔

書いた論文の理論ですけど、どうやって美人メー

カーに応用したのかしら。それはともかくとして、

私の理論を応用したとすると美人メーカーは危険

よ」

「えっ、使いすぎると顔がしわだらけになるとか

ですか」


「そういう種類の危険じゃないわ。パラレルワー

ルドっていうのは私達と殆ど同じ世界がいくつか

異次元の世界に存在するって事なのよ。私の理論

はそのパラレルワールド間のエネルギー転送に関

するものだったけれど、あの論文にちゃんと書い

ておいたはずですけどパラレルワールドエネルギ

ー保存則っていうのがあって、各世界のエネルギ

ーは一定であるってことなの」

「よく分からないわ」

「例えば、私達のいるこの世界からもう一つの世

界にエネルギーを送ったとすればそれに見合うエ

ネルギーがもう一つの世界から私達の世界に流れ

込んでくるのよ。どのようなエネルギー形態で転

送されるかはパラレルワールド間転送では不明な

の。でも、ほとんどの場合電気エネルギーか熱エ

ネルギーになる確率が高いことが分かっているわ」

「やっぱり分からないわ」

「そうね、どうやって説明すればいいかしら。そ

うそう、美人メーカーを大量に使用すればそのエ

ネルギーが各パラレルワールドに転送されるのよ。

各パラレルワールドには少ないエネルギーが送ら

れるけれど、私達の世界にはそれに等しい姿の変

わったエネルギー、例えば地震エネルギーとか台

風・噴火とか恐ろしいものになって降ってくるの

よ」

「小さな雷ぐらいにはならないのかしら」

「美人メーカーの使用頻度によると思うわ。でも

化粧品とセットで大量に売るとなると完璧に関東

大震災ぐらいのはくるわよ」

「それでは、美人メーカーは売る事も使うことも

危険で出来ないのね」

「市販するのは危険だけど、研究所内でちょっと

使うぐらいなら大丈夫だと思うわ」

「それじゃあ、私の会社倒産だわ」

「そうねえ、何かいい方策を考えてみるわ。いい

案が浮かんだら、連絡するわ」

「お願いします」



 一週間後のこと、かお美は一つのアイデアが浮

かんだので、西村カンナに電話して、開発の責任

者と同行するように頼んだ。



 「はじめまして、中嶋と申します」カンナが連

れてきた男は自分をこう名乗った。

「すぐに本題に入るわよ。美人メーカーはパラレ

ルワールドにエネルギーを転送する理論を応用し

ているというのは本当ですか」

「本当です」

「何故、パラレルワールドに転送しなければなら

ないのですか」

「肩凝りエネルギーなどをこの世界で使えるエネ

ルギーに変換する方法が見つからなかったからで

す。いらないエネルギーは捨ててしまえという考

えからですね。この世界に捨てたら他の人が肩凝

りになってしまいますからね」

「やっぱり私の思った通りね。そこの考え方が間

違っていたのよ」

「と言うと。他の人を肩凝りにしてしまえと言う

のですか」

「簡単に言えばそうよ」

「そんな、むちゃくちゃな」

「エネルギー変換されて地震が起こるよりましよ」

「肩凝りを、一人の人にあげるのではなくて世界

中にばらまけばいいのよ」

「では、むしゃくしゃした気分なんてのもそうで

すか?」

「そうよ、でもこの種の物は起きている時よりも、

夜寝ている時にエネルギーを渡してあげたほう


がいいと思うわ」

「同感です、親しく話していたら突然虫の居所が

悪くなって当り散らすなんてことが起こったら、

冗談じゃ済まされませんよ」

「今でも、そういう人は今でも居ないこともない

けれど、そういうのは困りますわね。だから、寝

ている時にしましょう。寝ている時ならば、夢見

が悪かったぐらいで済みますからね」

「でも、そんな装置が作れるのですか?」

「パラレルワールドにエネルギーを送るより簡単

よ。でもね、一つ気になることがあるの」

「なんですか?」

「美人メーカーのモルモットになったとき、変な

会話が聞こえてきたわ。あれ、副作用があるんじ

ゃないの」

「御指摘の通りです。美人メーカーのターゲット

になる座標の位置に他の人のストレイ・エネルギ

ーがあったりするとそのエネルギーが夢となって

具象化されるようです。でも、この副作用は危険

なものではないと思います」

「だめよ。すごくプライベートな話だったわ。だ

からこの副作用があると、新手のゆすりなどの犯

罪が出て来るわよ」

「うーん。そこまでは考えませんでした。そうで

すね、不倫のエネルギーを見つければ、それでゆ

することが出来ますね。ちょっとやってみましょ

うか」

「馬鹿なことは、やめなさい」

「はい、済みません。冗談です」

「とにかく、この副作用がある限り新しい装置の

開発はだめね」

「そんなぁ。野中博士、なんとか知恵を貸して下

さい」

「私は理論屋で工学屋じゃないのよ」

「分かってます。でも、理論屋がヒントをくれな

いと工学屋は困ってしまうのです」

「でもねぇ、副作用の原因が原因だから、ストレ

イ・エネルギーのシールドでもするしかないわよ」

「それは僕も考えましたが、それは不可能です。

なにしろストレイ・エネルギーと言うのはシール

ドを出来ない種類の物を言うのですから」

「そうだったわね。じゃあ簡単、美人メーカーの

開発は中止ってことね」

「そ、そんな。僕は首になって、会社も倒産しま

す」

「しょうがないわね、変な装置を作った罰よ」

「もう少し考えて下さい。まだ、時間はたっぷり

あるのですから結論を急がないで下さい」

「そうねぇ、無理だと思うけど考えてみるわ」

「ありがとうございます。では、このへんでおい

とまいたします」

「いいアイデアが浮かんだら電話するわ」

「是非お願い致します」



  数日後の事である、中嶋が野中博士の所にやっ

てきた。彼女がいいアイデアが浮かんだと言うか

らである。

「さっそくですが、どんなアイデアでしょうか?」

「美人メーカーの捕捉フィールドは、指定座標の

回りのどのくらいの範囲なのかしら」

「直径2mの球形の範囲内です」

「やっぱり……、それが原因なのよ」

「えっ、どうしてですか」

「ストレイ・エネルギーのことをちょっと調べて

みたの。そうしたら、ストレイ・エネルギーは他

人の肉体には簡単に入ることが出来ないことが分

かったのよ。つまり、捕捉フィールド内に肉体以

外のストレイ・エネルギーが迷い込んで来ると問


題が起きるのよ。美人メーカーはその捕捉フィー

ルド内の物全てを一旦その内部に転送してからエ

ネルギー抽出を行なっているのでしょ?」

「その通りです」

「ところで、その美人メーカーの大きさはどのく

らいなの? 2mのものが転送されて来るのだか

らそれなりに大きいと思うけど。それから、そん

な大きなものどうやって売るつもりだったの?

そんな大きな機械は誰も買わないわよ」

「試作機は2mの捕捉フィールドを用いましたが、

売り出す予定の物は捕捉フィールドを用いずに

局所エネルギー抽出を行なう事を考えています」

「それ、それなら大丈夫よ。ストレイ・エネルギ

ーを吸い込まないように注意すれば問題なくうま

くいくと思うわ」

「なあんだ、計画通りやればよかったのか」

「でも、パラレル・ワールドにエネルギーを送っ

てはいけないのよ」

「あっ、そこが変更点ですね」

「やっぱり、深夜のエネルギー分散しかないわね」

「大丈夫ですかぁ?」

「パラレルワールド経由で過去にエネルギー放射

してもいいし」

「それは危険ではないですか? 時間に於けるエ

ネルギー保存の法則が破られる」

「この種のエネルギーは電気とかの実エネルギー

とは違って一つの世界の中でならば時間のエネル

ギー保存則は存在しないのよ」

「ほんとですか?」

「あなた、ほんとうに私の論文読んだの?」

「えっ、そのへんは読み飛ばしたのかもしれませ

ん」

「本当に読んだのかもあやしいわね。でも、私の

理論が正しかったら過去にこのエネルギーを分散

しても大丈夫よ」

「ところで、我が社の化粧品とペアで使ったとき

だけに効果を示すようにする方法はどうしたらよ

いのでしょうか?」

「簡単には、特殊な香料を用いてそれをセンサー

で分析した結果で美人メーカーが動作チェックす

るというのが考えられるけど、化粧品を一回買え

ばおしまいでしょうね」

「そうですね。でもその印の付いた匂いの半減期

を一ヶ月位に設定すればいいと思いますが」

「ヤブヘビよ。他社がすぐに研究してすぐに偽物

が出回ってだめになるわよ」

「その位分かってます。採算が取れるまで、大体

一年もてばいいということになってますから」

「あら、そうなの。なら、もつかも知れないわね」



 こうして美人メーカーはめでたくも開発に着手

され、幾多の困難を克服し始めの目標通りに美人

を阻害する不必要なエネルギーは過去に転送され

た。このエネルギーは過去ではいろいろなエネル

ギー形態を取ったが小さく分散化されたので被害

はなかった。

 しかし、未来を夢で見るという奇怪な現象や、

このエネルギーに敏感な人間が予知能力があると

いうことでもてはやされるということもあった。

ほとんどのかつて言われていた超能力というのは

この変化したエネルギーの副作用であった。



 格言  美人が増えるとエスパーも増える



                             −おわり−


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